

お香とは
人類は紀元前3000年のメソポタミア時代から、香り(香料)を生活の一部として取り入れてきました。その起源は、神に捧げる香煙であったと伝えられています。古代の人々は、香りを神と人間をつなぐ神聖な媒介と考え、地位や権力の象徴としても用いていました。また、香りは古くから女性にとって身を美しく装うための重要な要素でもあったようです。
日本に香が初めてもたらされたのは538年。仏教が百済から伝来した際、仏像や経典とともに海を渡ってきたとされています。
お香は大きく二つに分類されます。一つは、天然の香木そのものを使用するもので、「沈香」や「白檀」が代表的です。これらの原木を用途に応じて小さく切り分けたものが、「切葉」「刻み」「角」などと呼ばれます。
もう一つは、天然の香原料を調合して作られるものです。「龍脳」「丁子」「桂皮」「大茴香」「山奈」「甘松」などの香料を、炭粉や蜂蜜と練り合わせて作る「練香」「印香」「線香」などがあります。
近年では、天然香原料の代わりにエッセンスや合成香料を使用したものも登場し、形状もスティック型、コーン型、渦巻き型など、多様化が進んでいます。

沈香
沈香はジンチョウゲ科の大木であり、カンボジア、ベトナム、マレー半島などに分布するAquilaria agallocha や A. malaccensis を基原としています。しかし、30年以下の若木には精油成分が含まれず、無臭です。50年以上の老木や倒木が長年土中に埋もれることで、樹脂が沈着し、芳香を放つ沈香へと変化します。樹脂の沈着が多いものほど色が黒く、重くなり、水に沈むため「沈水香」と呼ばれ、それが略されて「沈香」となりました。

インドシナ半島産
破片状のものが多く、甘い香りが強く、品質が高いため高価とされています。

インドネシア産
木目の通った棒状で、シャープな香りが特徴です。特に焚き始めの香りに独特の個性があり、加熱を続けると次第に甘みが増すため、香りの変化を楽しむことができます。
沈香の中でも最も品質が優れたものは伽羅と呼ばれます。中でも、ベトナム産の「緑油伽羅」「黒伽羅」「紫伽羅」は最上級とされ、その香りは格別です。しかし、過剰な伐採や沈香を形成する菌の変化、木の質の変化などにより、最高品質の伽羅の入手は近年ますます困難になっています。
白檀
白檀は別名「栴檀」とも呼ばれ、ビャクダン科ビャクダン属に属する中高木です。樹高は約6~9mに達し、成熟するまでに約60年を要します。
香りを放つのは主に芯材の部分であり、葉や樹皮などの辺材にはほとんど香りがありません。
原産地はインドで、東南アジアからポリネシア諸島にかけて広く分布しています。特に、インドのマイソール州は良質な白檀の産地として知られ、年間約2,000tが生産されています。
